予定を変更してお送りします。FACTFULLNESSのレビューは次回に回します。
今回は山口周さんの「世界のエリートはなぜ『美意識』を鍛えるのか?」です。
以下の二枚の写真は読み飛ばして結構です。自分の草稿です。
面白くて二日で読んでしまいました。
それではアウトプット開始。
なぜ今「美意識」を鍛えるのか
筆者が言うには世界のエリートたちが美意識を鍛える理由は大きく3つあると主張しています。それは「真・美・善」の追求です。それらの背景となっている事象は以下の通りです。
⑴論理的・理性的な情報スキルの限界(『真』の追求)
⑵巨大な「自己実現欲求の市場」の登場(『美』の追求)
⑶システムの変化が早すぎる世界(『善』の追求)
それでは順番に見ていきます。
①論理的・理性的な情報スキルの限界(『真』の追求)
僕が所属している東京大学というコミュニティではコンサル業界が就職先として大変人気です。コンサルとは端的に言って「経営を『サイエンス』で助言・決定していく職業」です。つまり、統計的なデータや数学を応用して今後の売り上げの見積もり、市場の予測をしていくということです。上記の経営方針は論理的、理性的という言葉が非常にしっくりきます。しかし、このサイエンス的な経営戦略にはある二つの限界があるのです。
〈限界その1〉時間について
サイエンス的決定にはそれを裏付ける膨大なデータが必要です。コンサル業界に長らくいた筆者(ボストンコンサルティンググループに所属していそう)曰く、「データが不足している」という理由で業界人が経営方針の決定を遅らせることが頻繁にあるそうです。では、多くのデータがあれば良い経営方針が定まるのでしょうか?筆者はこれに懐疑的です。移り変わりが激しい現代においてデータ不足で経営方針の決定を遅らせることは他社に遅れをとるリスクしか生まないのです。時間がいくらあっても足りないのです。
〈限界その2〉差別化の喪失
コンサル業界は何で飯を食っているのか。それは経営方針の意思決定をサイエンス的にアドバイス・手助けすることですが、だんだんとそのノウハウが社会全体に広まったらどうなるでしょうか。つまり、それぞれの会社が各々サイエンス的な側面を何らかの方法で独学したらどうなるか。コンサル業界は不要になります。そして、サイエンスによる差別化は喪失します。言い換えれば、論理的・理性的な情報スキルは現代市場において何の差別化にもなっていないという状況が起こりつつあると言うことです。
上記の内容からサイエンス的経営はスピード感に欠け、もはや他社との差別化を図れていないことが言えます。そこで登場する概念がリーダーの「直観」と言うわけです。
ここでチェスの例を出します。とある実験でチェスのトッププレイヤー複数名とアマチュア複数名に対して対戦中自分が読んでいる手を声に出しながらプレーすることをやってもらいました。すると意外なことにトッププレイヤーとアマチュアで読んでいる手の「深さ」はそれほど変わらないのです。しかし、トッププレイヤーは直観的に浮かんだ手が有効な手で、その妥当性をチェックするために手を読んでいるのに対し、アマチュアは直観的に浮かんだ手がまず有効ではなく、ただ悪手の先を読んでいることが判明したのです。では、意思決定における正解とも言えるこの直観とはどのように磨かれるのか。これについて将棋の羽生善治さんが端的に述べています。
「良い手というのは美しい手と同義だ。」
そうです、ここで「美意識」があらわれるのです。ビジネスも将棋もチェスも複雑で抽象的な問題の解を導く点で一緒です。その解を短い制限時間内に、他者と差別化を図るためにはどうしたら良いのか。美意識によって磨かれた直観を信じることです。常に会社として気品高く、プライドを持って崇高な態度を保とうとし、誇り高い独自の世界観を大事にする姿勢が自ずと最善手を導いてくれるわけです。サイエンスはあくまでもその直観を補強するツールにすぎないのです。
では、なぜ経営の場で直観が軽視されがちなのか。それは直観はアカウンタビリティ(説明責任)が弱いからです。直観は論理的に説明できません。なぜそう判断したと聞かれても、「なぜと聞かれてもうまく説明できない。直観は直観だ。」そう答えることしかできません。一方、サイエンス的決定は説明することができます。「こういうデータがあります。数学的な統計処理を施せばこうなります。だから、こういう結果が予想されます。」演繹的な推論に人々は納得します。
しかし、アカウンタビリティというのは「無責任」を生み出します。戦略が後々失敗したとき「あの時はそう考えることが合理的だった」といくらでも責任を放棄できるのです。そんなリーダーシップのないリーダーを部下は信じられないに決まってます。
以上をまとめると、
「ビジネス・経営で何が「真」なのか。それを考える際、現場ではサイエンス、言い換えれば論理的思考・演繹的思考が支配的です。なぜならサイエンスは説明可能で皆が納得しやすいからです。しかし、それには様々な問題があります。決定スピードが遅く本質的になんの差別化にもつながっていないのです。しまいには後々、その時は合理的だったと言い訳ができる。そこで求められるのがリーダーの「直観」です。直観とは説明不能で責任を一身に請け負うことになりますが、これは個人の意思決定なのでスピーディーでかつ、何よりその個人の唯一無二のビジョンです。そして、この「直観」は美意識によって鍛えられます。会社として気品高く、プライドを持って崇高な態度を保とうとし、誇り高き独自の世界観を大事にする姿勢こそが経営の意思決定の場で実は最も良いソリューションを導いてくれるわけです。だから、世界のリーダー(ひろい意味でのエリート)は美意識を磨くのです。」
と言うことになります。
②巨大な「自己実現欲求の市場」の登場(『美』の追求)
市場には導入期、成長期、成熟期、衰退期というライフサイクルがあり、ライフサイクルの変化に伴って消費者のベネフィット=便益が変わっていきます。その便益は「機能→デザイン→自己実現」と変化します。まずは機能性に優れたものが売れます。パソコンでいったらより容量が大きいものであったりより処理が高速であるものです。だんだんと機能性で差別化が図りづらい市場になっていくと今度はデザインが良いものが売れます。デザイン的に自分の部屋に合ったり、質感が好みだったり。そして、最後に自己実現的便益が待っています。これは現代社会の消費の最終形態と言って良いでしょう。どいうことか。例えば、スターバックスでappleのPCを開いている人を想像してみましょう。この人にとってファストフード店でappleとは違うメーカーのPCを開いて作業するのではダメだったのでしょうか?おそらくダメでしょう。ファストフード店はうるさいからダメとか、apple製のPCの方が性能が良いとかそういう話がしたいのではありません。この人は「スターバックスでオシャンティーなappleのPCを開いてる自分」が好きなのです。ある意味、自分に酔ってるのです。それが良いとか悪いとかではなくこれは一つの自己実現なのです。スターバックスやappleというブランドのサービス、製品を消費することによって自己実現を果たしているのです。
では、appleがappleたる所以、もっと言えばappleが一つのブランドとして成立するのはなぜなのか。それはapple製品の機能性やデザインだけによるものでしょうか。おそらく違います。appleがappleたる所以はappleのストーリーや世界観、企業理念に人々が魅了されるからです。appleの技術やデザインを究極盗めたとしてもappleのような会社にはなれないのはこう言ったストーリーや世界観、企業理念があるからであり、このストーリーや世界観、企業理念の結局は創業者の美意識によって生まれ、維持されるのです。これはいわばその会社が独自の美を追求していることに他なりません。
③システムの変化が早すぎる世界(『善』の追求)
現代社会は変化がめまぐるしいゆえに実定法がその変化に間に合わないということが多々あります。なので国は社会問題に対応する時、後出しジャンケンのように法整備を
進めるのです。罪刑法定主義もへったくれもありません。DeNAの「コンプガチャ問題」、「キュレーションサイト問題」など法ギリギリのことをやっていても最初は「法律的に完全にクロじゃないからいいだろ」という論理が通っていてもいずれは完全にクロになるように今はなっています。
エリートは決められた枠組みの中でうまく競争に勝つことが得意ですし、むしろ競争に勝つからエリートと呼ばれているのです。ここで言いたいのは、中には法という決められたルールのちょっとした穴を見つけうまくのし上がることを考えるずる賢いエリートがいるということです。そういうずる賢いエリートはいずれは法に触れ失脚していきます。
リーダーには美意識に基づいた自己規範が必要です。悪とは何かを内省的に見る必要があります。実定法云々ではなく、モラルに基づいて人として何が善で何が悪かを正確に判断できる分別のある人間でなければいけないのです。
グーグルは企業理念の一つとして「邪悪にならない」というものを掲げています。人々の情報を扱う上でそれを悪用しないという意味を込めているのでしょう。また、ディープマインド社を買収した際にも、人工知能の暴走を防止する目的で内部に倫理委員会を設置したのです。グーグルは何が善で何が悪かを自分たちの中で明確な物差しとして持っているのです。法すれすれでお金儲けだけを考えている企業とは格が違うのです。
どうだったでしょうか、山口周さんの「世界のエリートはなぜ『美意識』を鍛えるのか?」。まだまだ紹介したい内容がたくさんありますがきりがないのでここら辺で。
世界のエリート、リーダーがいかに崇高な概念である「美意識」というものにこだわっているか。すごく参考になった本です。
非常に中身が濃くおすすめの本です。
次回は「FACTFULLNESS」をご紹介します。

FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣
- 作者:ハンス・ロスリング,オーラ・ロスリング,アンナ・ロスリング・ロンランド
- 出版社/メーカー: 日経BP
- 発売日: 2019/01/11
- メディア: 単行本
本日のおまけ
東京女子図鑑面白かった。素朴な内容なんだけどついつい引き込まれるのは水川あさみの演技力だよね、きっと。